北海道画廊で鶴田社長と常連客を囲んで談笑した。社長は話題が尽きることがないが、本人も自覚があるとおり前にも一度話した事がある内容のことも多い。今月初め、中島公園にある北海道立文学館で加清純子展があった。雪解けが進んだといえ、まだ公園の池には氷が張っていた。今回の展覧会は、苫小牧の苫美堂(せいびどう)という額縁店のオーナーが作品(<H子>1949年)を寄贈したのを記念して開催された。そのことを社長に話すと、「あそこの加藤さん、店をたたむもんで、所蔵する絵画300点あまりをうちで買い取れないかと依頼してきたんだよ。せりのほうでさばくことになるけど数が数だから受けるほうも大変だよ。わざわざ車を苫小牧まで走らせることになるんだけど、3往復はかかるだろうね」とぜんぜん大変そうな顔も見せず笑っていた。加清純子は作家渡辺淳一の小説「阿寒に果つ」のヒロインのモデルになったことで愛されている。今で言う援助交際の走りみたいな関係を年上の男性数人と持った女子高生だった。画力があり早熟だった。道内や東京の公募展で入賞し精力的に絵筆を走らせたほかに、シュールな小説も発表して注目を集めた。しかし、高校卒業を前に自ら命を絶つわけだが、その死に方は一つの作品だったとさえいえる。社長は80歳にもなるがいまだ現役で、社長目当ての常連客が多い。本来であれば土曜日は出番ではなかったが、社長不在でがっかり帰る常連客が多いため今月から土曜日も店に立つことになった。常連客の一人とは3年ぶりの再会になるという。街のど真ん中に店舗を構え従業員4人を使っている。そのほかにも私設美術館や、膨大な作品を保管する倉庫もある。「儲けなんかありませんよ。私の給料なんか従業員より低いぐらいなんですから」と自分の経営のやり方が間違っていないことに自信を持っている。今の自分にとってメンター(優れた指導者)は鶴田社長しかいない。もって生まれた人柄だけで商売はできないだろう。元手をかけずにできそうなのは風呂敷画商ぐらいだ。
イガチョフ
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