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イガチョフ

ヒロイン

いつも明るい笑顔の女の子Aさんはまけまけのムードメーカーだ。二十歳になったばかりだが、よく高校生に間違われるという。確かに酒屋でビールなど売ってもらえそうにないあどけなさが垣間見られる。だが、高校3年生のわが娘と比べれば、Aさんのほうが明らかに大人びている。娘もAさんも身長が同じくらいで、Aさんと並んで歩くと娘と歩いているような感覚に陥る。Aさんを一目見て「随分きれいな女の子だな」という印象を抱くのが普通だ。自分は趣味で小説を書くので今までいろいろな女性を書いてきたが、やはり絵になるような女性が一番書きやすい。小説のヒロインになる女性はガラスのようだ。一人で生きていける強い女では物語にはならない。もちろんAさんを主人公にするのなら、見たままの描写では物足りない。妄想を膨らませる必要がある。休養明けのAさんは少し顔色が悪かった。言葉数も少なく、「あぁ、今日はそっとしておいてあげたほうがいいな」と思ったものだ。無理をせず自分のペースで時間を過ごせればいいのだ。その日は早退した。翌日は吹っ切れたみたいで笑顔が戻った。まだ体調が快復していないのでストレッチと筋トレは見学することになった。椅子に座っているのも落ち着かず、いつもの立ち位置の床に座ることをAさんが提案した。「せっかくだからAさんにはまけまけのマネージャー役を担ってもらってもいいかな?」スタッフの提案はいつも唐突でAさんは面食らった。スタッフの代わりにストレッチの数を数えることになった。Aさんが数を数えると語尾が延びてまるで「かくれんぼ」の鬼が目を瞑って数を数えているようだ。夕方、母親が食事を作っている中、ギリギリまで公園で遊んでいた子供の頃が懐かしい。Aさんの「かくれんぼカウント」聞いていると心地がよく、きついストレッチも耐えられそうだ。明日は、動物愛護センター「あいまる」見学だ。自分とAさんは、まけまけから徒歩で向うグループだ。一人の脱落者も出さないのも強い仲間意識あってのことだろう。

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