珍しく妹から連絡が来た。今、札幌駅にいるのでお茶でもどうかという誘いだった。まけまけの午後のプログラムは情報誌の発行へ向けての会議があり、まぁすっぽかしてもどうってことないとも思ったが、先週街に出かけて人込みの多さに圧倒され帰ってきた経緯もあって、断りのメッセージを送ることにした。どうやら妹は病院の帰りのようで、ふと兄貴のことが気になったのだろう。数年前に乳がんの全摘手術をした妹は、定期的に検査をしにがんセンターに通院している。今のところ再発もせず穏やかに過ごしている。マーカーの値に一喜一憂する患者が多い中で、がん細胞が悪さしないことを祈るばかりだ。妹ががんの告知を受けたとき、がんに関する本を読んだ。一般書であったが、何でもかんでも手術してしまえば解決するわけでもなく、抗がん剤も当然副作用が甚大で身体への負担を考えなければならないとわかった。妹は早期発見早期治療の原則で手術に臨んだが、女性の美のシンボルと言える乳房を失うのはショックだっただろう。放置しても手術しても生存率に差はないというデータもある。一時はやった近藤誠の「がんもどき理論」を読む限りでは、もし自分が何らかのがんに侵されたなら、手術も放射線治療も最低限の対処にして、もっぱら痛みのコントロールと、生活の質を維持する治療を受けたいと思った。男性は年齢が行くとどうしても前立腺の問題が出てくるのは避けられない。これも手術をすると、普通の生活に支障が出ると聞いたことがある。紙おむつが手放せない事態になるらしい。がんにかかった有名人のほとんどが、術後の経過が悪く復帰が望めないばかりか亡くなってしまうケースが後を絶たない。がん細胞といえども、もともとは自分の体の一部であって、どこかで遺伝子のコピーミスが起こり、増殖が進んでいるのだ。自然現象なので無理に食い止めるのは、それこそ無理がある。余命は気の持ちようで長くも短くもなる。妹には一人息子のためにも母親としての務めを全うしてもらいたい。
イガチョフ