夏ばてで休んでいるSさんは、いつもなら底抜けに明るい女性だ。一人住まいであるが、大好きな花に囲まれて上機嫌でいる。まけまけ開業一周年のお祝いの花もボリュームがありつつもしとやかな飾り花だった。我が家には花瓶がなく、花を生けられないが、代わりに絵画を飾っている。4点ある。初めて買った絵画は水彩の小さな絵で、「ノートルダム」。画家は函館の橋本三郎だ。これがきっかけとなり絵画に興味を抱くようになった。気に入った絵画は手元に置いておきたくなる。残りの3点は油彩で、重厚感のある作品だ。北海道の画壇でもトップに君臨していた菊池精二「スペインの女」は短編小説の題材に使った。今月発行される文芸誌が待ち遠しい。今年に入って、昔思いを寄せていた女性に絵をプレゼントしようと目論んだが計画の段階で失敗に終わった。デートの誘いを見事払いのけられた。すでに絵画は購入していたので、その絵は押入れの中にしまっている。早いところ処分しないと嫌な気持ちを引きずってしまう。絵のプレゼントは相手の好みがわからないので難しい。その点花をプレゼントするのは割りと簡単かもしれない。Sさんのように自然体で花を贈られるようになりたいものだ。まさか「こんな物興味ないわ」と花を踏みつけるようなひどい相手はいないだろう。物を送っても結局荷物になるだけだ。花は枯れてしまうが美しさは永遠に思い出の中で生きつづける。花に自分の気持ちを添えれば枯れてもまた思い出の中で咲くことだろう。恋花とはそういうものだ。もう恋だ愛だと騒ぐような歳でもないが、書くものは片想いの恋愛小説だ。イメージする女性像は近場からピックアップしている。普通に接しているので、相手もまさか自分が小説のヒロインになっているとは思いもしないだろう。実像より三割り増しで綺麗に描写するぐらいが文学的だ。たまに自分の理想にぴったりの女性が現れて驚いてしまう。そういう人は高嶺の花で遠くから眺めるだけだ。一緒に時間を過ごせるだけで幸せだと思っている。
イガチョフ