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イガチョフ

恩師

先週の金曜日、母が遊びに来た。一月に一度ぐらいしか会うことがない。自分には年子の妹がいて、母は妹夫婦と同居している。いつもそうだが、母の話題と言えば妹のことで、散々口をこぼして終わってしまう。うなずきながら聞いているが、もううんざりだ。「今に罰が当たるさ」と母は妹を罵る。話題をそらすために、昔話をすると、次のような話に繋がった。小学校時代を岩手県盛岡市で過ごした。川と山の町で、ニュータウンに住んでいた。一年中、外で遊びほうけていたので、テレビを見たり漫画を読んだりということがなかった。一年生の時T先生という女性教師が担任であったが、その先生が現在札幌へ移住して暮らしていると言う。一年生の時の記憶はほとんどなく、傘でチャンバラ遊びをしていて目に怪我を負ったことと、運動会で初めてポラロイドカメラで撮影されて、その場で写真ができたことに驚いたことぐらいだ。T先生は娘夫婦の世話になっているようで80代の今も元気だそうだ。夫婦で囲碁をたしなみ老後をエンジョイしている。40年以上経ってT先生の消息をつかめたのは、たまたま先生の妹に当たる人と母が友人同士でお付き合いがあったからだ。いつかお会いしたいと願っていたことが実現する可能性が出てきた。母はだいぶ前から知っていたはずだが、自分に知らせることをしなかった。やはり世間体を考えてのことかもしれない。母もやっと息子の障害を受け入れたということだろう。「懐かしいな。T先生とお会いしたいな」その場で住所を調べてもらうようにお願いしたいところだったが、母の立場も考えてやめておいた。先生とは時期がくれば会えるだろう。それにしてもこんな奇跡が起こるとは思ってもみなかった。先生から話を聞けば、忘れ去ってしまった昔の自分を見つけることができるかもしれない。それは大収穫になるだろう。こういうのをまさに神のはからいというのだ。高校時代の恩師もありがたいもので、自分のことをよく覚えてくれている。教師にとって生徒とはわが子のようなものだ。

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