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イガチョフ

患う

F夫妻がまけまけに戻ってきた。身体の故障で長期間に渡って静養を余儀なくされた。ストレッチも身体に配慮して軽く動かすに留めた。患部が痛くて、痛み止めを飲みながらの生活を余儀なくされている。これから徐々に快復の道のりを歩んでいくことになる。F氏に与えられた今日の課題は「自分史」の書き方の本に目を通すことで、神妙な面持ちでページをめくっていた。「もう終活のつもりで、遺書を書かなければね」と冗談を交えた。身体の不調は精神面にダメージを与える。自分も首の痛みと腰痛を抱えている。週明けのまけまけのストレッチは身体にこたえる。前屈もできないほど身体が硬くなっている。「イタイ。イタイ」と叫びながらの運動だ。最近はストレッチのカウントを一人ひとり声に出して順番に数えるようにしている。身体を動かしながら数えるのはけっこうしんどい。普段、ストレッチの際、呼吸を止める傾向にあるからかもしれない。F氏は病院でリハビリに励んでいる。無理は禁物であるが、昔の身体を取り戻すことは半ば諦めているようだ。ともに50歳でまだ人生先が長い。爆弾を抱えてしまったF氏のように自分もいつ身体の故障に見舞われるか知れない。高校の同期で政治家のI氏がステージ4の大腸がんを患っているとマスコミで公表したばかりだ。肝臓とリンパにも転移が認められ、緊急手術となった。政治事件の元凶となったI氏は社会的制裁を受け肩身の狭い思いをしながら政治活動を続けていた。それでも結婚し子供に恵まれ、なんとかまっとうな人生を歩み始めた矢先のことだった。天国と地獄を見た男だ。人の死には、3つある。社会的な死、肉体的な死、霊的な死である。I氏は社会的には失敗者で排除された。そして今、肉体的な死との取引をしなければならない。問題は、霊的な死だ。霊とは精神のありようを言う。心身は分けて考えるものではない。精神障がいは肉体の故障の一部である。肉体が快復すれば健全な精神は取り戻せるだろう。

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